近年、「口呼吸が歯並びを悪くする」という話を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
普段何気なく行っている呼吸習慣ですが、鼻呼吸ではなく口呼吸が習慣化すると、歯列や顎の発達、さらには全身の健康にも大きな影響を及ぼすことが分かっています。
今回は、口呼吸と歯並びとの関係性を歯科医師の視点から解説し、改善のためのポイントもご紹介します。
口呼吸とは?

通常、人間は鼻呼吸が基本です。
鼻にはフィルター機能や加湿作用があり、空気をきれいにして肺に届ける大切な役割があります。
一方、口呼吸はその名の通り口を開けて呼吸をする習慣です。
風邪やアレルギー性鼻炎、アデノイド肥大などで鼻が詰まりやすい子どもに多く見られますが、大人でも癖として定着している方が少なくありません。
口呼吸が歯並びに与える影響

口呼吸は単なる癖ではなく、歯列や顎の成長に深刻な影響を与えます。
舌の位置の低下
鼻呼吸では舌は上顎にぴったりと収まり、自然に歯列の拡大を助けます。
しかし口呼吸では舌が下がり、上顎が狭くなって歯が並ぶスペースが不足します。
その結果、出っ歯や叢生(ガタガタの歯並び)につながります。
上顎の成長不全
口呼吸では口唇が開きがちになり、頬の筋肉の圧力が強くかかります。
これにより上顎が横に広がらず、V字型の狭い歯列弓になりやすく、結果として歯並びが乱れやすくなります。
開咬(オープンバイト)のリスク
常に口を開けていることで上下の前歯が噛み合わず、前歯で食べ物を噛み切れない「開咬」を引き起こす場合があります。
出っ歯(上顎前突)
口呼吸は口唇の筋力低下を招きます。
唇で前歯を押さえる力が弱まると、前歯が前方に傾き、出っ歯になりやすくなります。
口呼吸による歯並び以外の問題

口呼吸の悪影響は歯列不正だけにとどまりません。
虫歯・歯周病リスクの上昇
口呼吸で口腔内が乾燥し、唾液による自浄作用が低下するため。
口臭の悪化
口の中が乾燥することで細菌が繁殖しやすくなる。
睡眠の質の低下
いびきや睡眠時無呼吸症候群の原因になり得る。
全身の発育への影響
酸素摂取量が減少することで、集中力の低下や成長への影響が懸念される。
子どもと大人での影響の違い

子どもの場合
成長期の子どもは顎や顔面骨格が発育途上にあるため、口呼吸が歯並びや顔貌に大きく影響します。
いわゆる「アデノイド顔貌(顔が縦長で唇が開いた状態)」もその一例です。
大人の場合
大人ではすでに顎の成長が完了しているため、骨格的な影響は少ないですが、歯並びの後戻りや歯周病リスクの増加などにつながります。
口呼吸を改善するための方法

医学的原因を取り除く
- 耳鼻科で鼻炎やアデノイド肥大の治療を受ける
- アレルギー対策を行う
矯正歯科での治療
- 拡大床やマウスピース矯正で上顎を広げる
- 舌の位置を改善する「MFT(口腔筋機能療法)」を取り入れる
日常生活でできる習慣改善
- 姿勢を正す(猫背は口呼吸を助長する)
- 唇を閉じる意識を持つ
- 舌を上顎に当てるトレーニングを行う
歯並びと全身の健康を守るために

口呼吸は「癖だから仕方ない」と放置するのではなく、歯並びや健康に直結する生活習慣の問題です。
特に小児期の早い段階で改善することで、将来的な歯列不正や矯正治療の必要性を減らすことができます。
大人であっても口呼吸をやめることで、歯周病や口臭、睡眠の質の改善など多くのメリットが得られます。
まとめ
口呼吸は舌の位置や顎の発達に影響し、出っ歯・叢生・開咬など歯並びの乱れを引き起こす原因となる。
虫歯・歯周病・口臭・睡眠障害など、口腔内だけでなく全身にも悪影響を与える。
改善には耳鼻科治療、矯正歯科でのアプローチ、日常生活習慣の見直しが重要。




