「八重歯(やえば)」とは、上あごの犬歯が外側にずれて生えている状態を指します。
日本ではこの八重歯が「チャーミング」や「かわいい」とされることがしばしばありますが、果たしてこの感覚は日本人だけのものなのでしょうか?
本記事では、八重歯の文化的背景や国際的な捉え方を探りながら、「八重歯=かわいい」という感性の成り立ちを考えてみたいと思います。
八重歯とは何か?

歯科医学的には、八重歯は「歯列不正(叢生:そうせい)」の一種であり、歯並びの乱れの一つとされています。
犬歯が本来の位置に生えず、歯列から外れて前に飛び出したり、横にずれたりする状態です。
欧米などでは「crooked teeth(曲がった歯)」や「snaggletooth」とも呼ばれ、美的にはマイナス要素と捉えられることが多い特徴です。
しかし、日本では一部で「魅力的」とされることもあるのが特徴的です。
日本における八重歯の魅力の起源

日本で八重歯が「かわいい」とされる背景には、いくつかの文化的・社会的要因が関係しています。
「不完全さ」への美意識
日本文化には「不完全なもの」に美を見出す価値観があります。
茶道の「侘び寂び(わびさび)」にも象徴されるように、完璧さよりもどこか欠けたもの、不均衡なものに味わい深さや親しみを感じる感性です。
八重歯も歯列の「乱れ」でありながら、そこに独自の個性や愛嬌を感じさせるものとして捉えられてきたと考えられます。
少女性・親しみやすさの象徴
特に1990年代以降、日本の若い女性アイドルや女優の間で八重歯がチャームポイントとされることが増えました。
例えば、松田聖子さん(1980年代)や板野友美さん(元AKB48)などが八重歯のある笑顔で人気を集めました。
八重歯は「少しドジそう」「守ってあげたくなる」という印象を与え、少女性や親しみやすさを強調する要素となっていたのです。
美容矯正への抵抗感の薄さ
欧米では早期から歯列矯正が一般化しているのに対し、日本では長年、歯列矯正がそれほど普及してきませんでした。
費用面や文化的価値観の違いも影響し、「完璧な歯並び」へのこだわりが欧米ほど強くなかったことも、八重歯が「自然体の魅力」として受け入れられた理由の一つです。
海外ではどう見られているか?

では、他国では八重歯はどう捉えられているのでしょうか?
一般的には「歯並びが悪いこと」はネガティブに評価されることが多く、歯列矯正はステータスや健康の象徴とされます。
特にアメリカやヨーロッパ諸国では「真っ直ぐで白い歯」が美の基準とされ、八重歯は矯正すべき対象とされがちです。
ただし、興味深いことに、日本の八重歯文化は近年、一部の海外メディアでも「ユニークな美意識」として紹介されています。
たとえば2013年頃、日本で「つけ八重歯(人工八重歯)」が流行したことが海外ニュースで話題になりました。
アメリカのファッション誌「Vogue」などでも、「日本人は八重歯を可愛さとみなしている」という文化的特徴として取り上げられました。
なぜ日本だけが「八重歯=かわいい」と感じるのか?

この問いに明確な答えを出すことは難しいですが、日本独自の「かわいい文化(カワイイ文化)」が深く関係していると考えられます。
日本の「カワイイ」は単なる「美しい」や「整った」ではなく、「小さい」「未成熟」「守ってあげたくなる」ものを好む価値観です。
八重歯はまさにこの「未完成さ」「愛嬌」を体現する特徴と映ります。
また、「自己主張しすぎない控えめさ」も日本文化では美徳とされ、それが八重歯の持つ「隙」や「柔らかさ」と相性が良いのです。
これから八重歯はどうなる?
近年、日本でも歯列矯正の普及が進み、「歯並びの良さ」が重視される傾向が強まっています。
健康志向やグローバル化の影響もあり、かつてほど八重歯が「かわいい」と無条件に評価される時代ではなくなってきています。
しかし一方で、「個性」として八重歯を好む人も依然として存在します。
まとめ

八重歯が「かわいい」とされるのは確かに日本独特の文化的感性に支えられています。
日本人の「不完全さへの愛着」や「カワイイ文化」が、八重歯に対して肯定的な眼差しを向けてきた背景にはあるのです。
ただし、それが「日本人だけの感覚」かというと完全にそうとも言い切れません。
グローバル化が進む中で、日本のこうした美意識が「ユニークな魅力」として海外にも広まりつつあるからです。




