~術前・術後の矯正治療を正しく理解しよう~
歯列矯正と聞くと、マウスピースやワイヤー装置で歯を動かすイメージを持つ方が多いと思いますが、顎の骨格に大きなズレがある「骨格性の不正咬合」に対しては、通常の矯正だけでは改善が難しい場合があります。
このようなケースでは、「外科的矯正治療」が選択されることがあります。
そしてこの外科矯正は、「術前矯正」と「術後矯正」という二段階の矯正治療を行うことが基本とされています。
今回は、外科矯正の流れや、それぞれの段階での目的、治療期間、注意点などについて詳しく解説します。
外科矯正とは?

外科矯正(正式には「顎変形症に対する外科的矯正治療」)とは、顎の骨格の位置や形に異常がある不正咬合に対して、外科手術と矯正治療を組み合わせて治療する方法です。
対象となる症例には以下のようなものがあります:
- 受け口(下顎前突)
- 出っ歯(上顎前突)
- 顎の左右非対称(顎偏位)
- 開咬(奥歯は咬んでいるのに前歯が閉じない)
- 極端な上顎または下顎の後退や突出
これらは歯だけでなく骨格の異常が原因のため、歯列矯正だけでは治療効果が限定的になります。
そこで、顎の骨を適切な位置に移動させる外科手術が必要となるのです。
外科矯正は「二段階矯正」が基本

外科矯正治療は、「術前矯正」→「外科手術」→「術後矯正」という三段階で進みますが、矯正治療としては「術前」「術後」の二段階構成になります。
① 術前矯正の目的
外科手術前に行う矯正治療で、通常1年~1年半程度かけて行われます。
主な目的:
- 歯を正しい位置に並べる(骨格のズレに合わせて無理に噛み合っていた歯をリセット)
- 顎の手術に適した咬合関係に整える
- 手術後に安定した咬合を得られるよう準備する
※この段階では一時的に咬み合わせが悪くなることがありますが、それは外科手術によって骨格が整えば正常な咬合になるため、問題ありません。
② 外科手術
術前矯正が完了した後、病院で顎の骨を切って位置を整える手術(例:下顎枝矢状分割術、ルフォーI型骨切り術など)が行われます。
入院期間は通常1週間前後、術後1ヶ月ほどは咀嚼が制限されるため、流動食・軟らかい食事が中心となります。
③ 術後矯正の目的
手術後、約6ヶ月~1年程度かけて行う矯正治療です。
主な目的:
- 骨格が整った顎に対して、正確な咬合を作る
- 微調整で歯列をさらに整える
- 長期的な安定性を確保する
術後矯正をしっかり行うことで、手術の成果を最大限に引き出し、後戻りを防ぐことができます。
外科矯正にかかる期間と費用

治療期間
- 術前矯正:約12~18ヶ月
- 外科手術:手術自体は1~2時間、入院期間は約1週間
- 術後矯正:約6~12ヶ月
- 総治療期間:約2~3年
費用について
外科矯正は、「顎変形症」と診断され、保険適用の条件を満たせば健康保険が適用されます。
ただし、適用されるのは以下の条件を満たす場合です:
- 指定自立支援医療機関または保険医療機関での治療
- 明確な骨格性不正咬合(レントゲン等による診断)
- 必要な手術と矯正治療の両方を受ける
※自由診療で外科矯正を行う場合、総額200~300万円以上かかることもありますので注意が必要です。
外科矯正が適しているのはどんな人?

以下のような特徴がある場合、外科矯正が検討されます。
- 前歯が全く噛み合わない(開咬)
- 正面から見て顎が左右にズレている
- 咬み合わせが深く、見た目にも顎が小さく見える
- 極端な出っ歯・受け口で発音や咀嚼に支障がある
また、成長が止まった高校生~成人以降が対象となるため、思春期を過ぎた段階での治療計画が一般的です。
まとめ:二段階の矯正で「本来の咬合と美しさ」を実現

外科矯正は、単なる審美目的の矯正治療とは異なり、機能面の改善を重視した医療行為です。
術前・術後の二段階に分かれた矯正治療によって、以下のようなメリットが得られます。
- 正しい咬合機能の獲得(食事・会話がしやすくなる)
- フェイスラインや顔貌の改善(コンプレックスの解消)
- 長期的に安定した歯列の実現




