~短期間・低価格の裏にある意外な落とし穴~
「前歯のちょっとしたガタつきを直したいだけだから、部分矯正で十分かも」
「できれば短期間・安い費用で矯正したい」
このような希望から「部分矯正(MTM: Minor Tooth Movement)」を検討する方が増えています。
しかし、多くの人が見落としているのが、部分矯正は簡単そうに見えて実は全体矯正よりも難易度が高いという事実です。
今回は、部分矯正の仕組みや適応症例、そしてなぜ部分矯正が全体矯正よりも難しいとされるのか、その背景に迫っていきます。
部分矯正とは?そのメリットと誤解

部分矯正とは、全体ではなく数本の歯だけを対象にした矯正治療のことを指します。
主に前歯の軽度な乱れや隙間の改善に使われることが多く、以下のようなメリットがあります。
部分矯正のメリット
- 治療期間が短い(3~9ヶ月程度)
- 費用が安く済む(全体矯正の1/3~1/2程度)
- 目立ちにくい装置(マウスピース矯正との相性も良い)
こうしたメリットから、結婚式や就職活動などのイベント前に見た目を整えたい方に人気ですが、実はこの「手軽そう」「すぐ終わる」といったイメージが大きな誤解を生んでいるのです。
部分矯正の難しさ①:動かす歯が限られているという制約
全体矯正では歯列全体を使って力のバランスを取りながら歯を動かすことができますが、部分矯正では動かせる歯が限られるため、非常に繊細な力のコントロールが求められます。
例:前歯2本を内側に引っ込めたい場合
全体矯正なら奥歯を固定源として使いながら前歯を動かせますが、部分矯正では奥歯が動かせないため、固定源が不足しがちになります。
この場合、動かしたくない歯まで動いてしまう「アンカーロス(固定源の喪失)」が起こりやすく、結果として理想の歯列が作れないことも。

部分矯正の難しさ②:かみ合わせへの配慮が必要
部分矯正はあくまで「一部の歯の見た目を整える治療」ですが、歯列はすべて連動しています。
つまり、一部の歯を動かすと他の歯やかみ合わせ全体に影響が及ぶということです。
例:前歯のねじれを部分矯正で改善したが…
治療後に「前歯同士のかみ合わせが深くなりすぎて、奥歯のかみ合わせに不具合が生じた」など、見た目は良くなっても機能が損なわれるケースもあります。
特に上下の歯列のバランスを無視した部分矯正は、将来的なかみ合わせトラブルや顎関節症の原因になりかねません。
部分矯正の難しさ③:後戻りしやすい
部分矯正は、歯を動かすための力学的な余裕が少ないため、歯根の向きや歯列全体の安定性が確保されにくい傾向があります。
その結果、矯正終了後に後戻りが起こりやすいという問題があります。
特に歯の移動量が多いわけではないのに、治療前よりも噛みにくくなった・すぐに元に戻ったと感じる方は少なくありません。
これは全体矯正に比べてリテーナー(保定装置)の使用がより重要になるという意味でもあります。
部分矯正が向いている人/向いていない人

部分矯正が適している人
- 前歯のわずかなデコボコを改善したい
- 過去に矯正したが少し戻ってきた
- 奥歯のかみ合わせが安定している
- 見た目の改善だけが目的で機能的な問題がない
部分矯正に向いていない人
- 骨格やかみ合わせに問題がある
- 奥歯のズレや歯列全体のバランスが悪い
- 顎のずれや咬合異常を抱えている
- 前歯の位置や向きが歯根ごと大きくずれている
「前歯だけ直せばOK」と思っていても、実際には全体矯正が必要なケースも少なくありません。
部分矯正を希望するなら必ず専門医の診断を!

部分矯正のリスクは、診断の段階で見逃されやすいことにあります。
見た目だけで判断し、「部分矯正で大丈夫です」と安易にすすめる医院も残念ながら存在します。
しかし、本来必要だった全体矯正を省いてしまうと、結果的にトラブルが増えたり、再治療が必要になるリスクも。
まとめ:簡単そうで奥が深い「部分矯正」
部分矯正は見た目の改善に特化したシンプルな治療と見られがちですが、限られた条件の中で歯を動かす必要があるため、実は高い技術と正確な診断力が求められます。




