特に マルチループワイヤー矯正を出来ない矯正歯科では直ぐに歯を抜きたがると言うか抜かざるを得ないと言うか、真っ直ぐなワイヤーを用いての矯正治療では抜く以外に方法が有りません。

その為当院では出来るだけ非抜歯で矯正治療を行う為、 マルチループワイヤーを用いて咬合平面を変化させる事により治療を行っています。

今回のお話は歯科医師が読んでも中々理解し難い内容ですのでサラッと流して頂ければ結構です。

はじめに

受け口(下顎前突)は、上顎に対して下顎が前方に突出している状態を指し、機能的および審美的な問題を引き起こすことがあります。

治療法としては、成長期の骨格的アプローチや成人の外科的矯正治療が選択肢となりますが、マルチループ(MEAW:Multiloop Edgewise Archwire)を用いた歯列矯正も有効な方法の一つです。

今回はマルチループによる矯正治療が咬合平面に与える影響について詳しく解説します。

受け口矯正におけるマルチループの役割

マルチループアーチワイヤーは、多数のループを組み込むことで、歯の三次元的な移動を可能にする装置です。

特に受け口の患者においては、下顎の前方突出を抑え、適切な咬合関係を構築するために用いられます。

マルチループの特徴として、以下の点が挙げられます。

  • 個々の歯を独立して制御可能:前歯部の後方移動や挺出、臼歯部の圧下など、各歯の動きを細かく調整できる。
  • 垂直的コントロールが可能:咬合平面の傾斜を意図的に調整でき、受け口の改善に寄与する。
  • 咬合平面の変化を誘導:下顎の後方回転を促進し、下顎の突出を軽減する効果が期待できる。

咬合平面の変化とその意義

3.1. 咬合平面の後方上昇(後ろ上がり)

受け口の患者では、一般的に咬合平面を後方に向かって上昇させる(後ろ上がり)ことが治療目標の一つとなります。

この変化の理由は以下の通りです。

下顎の後方回転を促進:咬合平面が後ろ上がりになることで、下顎の回転中心が後方へ移動し、相対的に下顎が後退する。

前歯部の被蓋改善:上顎前歯の挺出および下顎前歯の圧下が起こり、適切な咬合関係が形成される。

骨格的なバランスの調整:特に成長期の患者では、上顎の前方成長を促進し、下顎の過成長を抑えることができる。

3.2. 臼歯部の圧下と前歯部の挺出

マルチループの特徴を活かすことで、臼歯部の圧下と前歯部の挺出を同時に行い、咬合平面の調整を行います。

特に、

  • 臼歯部を圧下することで下顎が後方回転
  • 上顎前歯の挺出により咬合高径が確保され、機能的な咬合が得られる

といった効果が期待できます。

マルチループによる治療の流れ

4.1. 診断と治療計画の立案

まず、患者の骨格的・歯列的な問題を詳細に分析し、適切な治療計画を立案します。

4.2. マルチループの装着と調整

マルチループアーチワイヤーを装着し、適切な力を加えて歯の移動をコントロールします。

臼歯部への圧下力を加え、咬合平面の変化を誘導
前歯部への挺出力を調整し、咬合のバランスを整える
定期的なワイヤー調整により、治療目標に向けた歯の動きを継続的に管理

4.3. 保定と長期的な管理

歯の移動が完了した後は、リテーナーを装着し、後戻りを防ぎます。

固定式リテーナーや可撤式リテーナーを使用し、咬合平面の維持を図る
長期的なフォローアップを行い、再発のリスクを管理

まとめ

マルチループを用いた受け口患者の矯正治療では、咬合平面の調整が重要な役割を果たします。

特に、

  • 咬合平面を後ろ上がりにすることで下顎の後方回転を促す
  • 臼歯部の圧下と前歯部の挺出を組み合わせることで、機能的な咬合を構築する
  • 長期的な保定により、治療効果を安定させる

といった点が治療の鍵となります。

マルチループを活用することで、外科的矯正を回避しながら効果的な歯列矯正を行うことが可能となります。

患者ごとの状態を考慮しながら、適切な治療戦略を立てることが求められます。